現地から実際に書き込んだ行動日記
2001年03月24日(土)
■久しぶりに書いてみました。
 
 日記を再開すると公言していたのに、実行できずに心苦しく思っていました。今日は最近の出来事についてまとめて書きたいと思います。自分の記憶を呼び覚ますためのメモ的な意味も含めて。

 大阪の報告会を終え、東京に戻ったのが18日のお昼、その日の夕方の便ですぐにオーストラリアに向かった。オーストラリアの最高峰コジウスコは高尾山(関西で言うと六甲山?)みたいな山で、登山とさえいえない。それでも森や山と2ヶ月弱もご無沙汰だったので、ちょっとした気分転換にはなった。頂上で衛星電話を使ってメールを送信することができた。キャノンから新しく提供されたデジカメ、イクシデジタルは一番小さなサイズの画像でも容量が150Kもあり、衛星電話で送るにはあまりにも時間がかかりすぎることが判明した。エベレストにはP2Pのときに使っていたS10かイクシのビデオカメラについている写真撮影機能で記録して送ることになるかもしれない。
 夕方から登り始めたため、下山するときには真っ暗になっていた。冬はスキー場になるコジウスコ山麓は、冬以外ののシーズンには人の姿などほとんどない。山道を通るのが面倒だったので、宿まで一直線にブッシュの中を直進して下山した。麓についたときには履いていた靴やパンツは緑色に変色し、いつまでも草いきれが落ちなかった。
 キャンベラで美術館にいった。モネと日本展がひらかれており、モネと縁のある北斎などの浮世絵も展示してあり得した気分だった。富嶽36景では浅草などからも富士山が見えており、当時の空気の美しさや猥雑な建物が無い環境をうらやましく思う。久々にゆっくりとした時間を過ごし、それ以外の時間は主に原稿の校正などをしていた。

 22日の朝に帰国し、その日の夕方の便で鹿児島にやってきた。プロスキーヤーの三浦雄一郎氏のグループと一緒にトレーニングを行っている。三浦さんはぼくがエベレストへ行くのと同じ時期にネパールのメラピークに登りに行くため、そのためのトレーニングで鹿児島に来ている。2003年に世界最年長70歳でのエベレスト登頂を目指しており、メラピークはその前哨戦も兼ねているようだ。温泉で湯に浸かりながら、いろいろアドバイスをいただいた。今晩はぼくには一生行く機会のなさそうな高級料亭に連れていってもらったのだが、やはり妙に落ち着かなかった。三浦雄一郎さんのグループは3人で、皆60歳前後の大先輩方である。寝るのも早く、今ぼくがキーボードを叩いている午後10時、すでにお三方はベッドにいらっしゃるので、もうこれ以上日記を書き続けることができない。ぼくのために電気を消さずに待ってくださっているのだ。
 今日は標高3800メートルの高度で寝る。きちんと順応できますように。
 ではおやすみなさい!

mt.mckinley

:マッキンリー(20歳)

mt.elbrus

:エルブルース(22歳)

mt.kirimanjaro

:キリマンジャロ(22歳)

mt.vinsonmassif

:ビンソンマシフ(23歳)

mt.aconcagua

:アコンカグア(23歳)

mt.kojiusuko

:コジウスコ(23歳)

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2001年03月25日(日)
■鹿屋体育大学にて
 
 今朝、三浦雄一郎さんたちのグループが鹿屋体育大学をあとにした。今日から明日にかけて、ぼくは一人で低酸素室にこもることになる。
 低酸素室とは何か?ぼくは理系分野に弱いので、学術的に説明することはできないが、要は文字通り酸素濃度の低い部屋ということになる。今までの高所順応トレーニングでは、気圧を調節する低圧室などが使われていたが、気圧を管理するには密閉度の高さが重要になるので、機器やその他の面でかなりのコストがかかっていた。それに比べると低酸素室についてはその設備自体にかかるコストも抑えられ、部屋内部での自由度もより高まっているという。
 トレーニングは主に午前と午後に2時間ずつ低酸素室に入り、それぞれ約一時間ずつバイクマシンなどで軽い運動を行う。さらに夜はその部屋の中で眠る。朝食、昼食、夕食時やトレーニングを行っていない時間帯は低酸素室の外で何をしていてもいいのだ。これらのサイクルのあいだに、最大酸素摂取量や骨密度、血圧、腹筋力などさまざまな項目の検査を行っている。
 昨日検査した最大酸素摂取量(VO2max)のデータによると、ぼくは60.5という数字がでており、これは現役の体育大学生、もしくは引退したマラソンランナー並だという。ヒマラヤのチョーオユーにも登った鹿屋体育大学の山本先生によると、ぼくのエベレスト登山については、体力的には全く問題がないとのこと。あとは天候次第だね、とおっしゃっていた。気になるのは心拍数が高めだということだ。山では心拍数が低ければ低いほうがいい。ここ2ヶ月、時間に追われてばかりいることが心拍数を高めている原因かもしれない。早く都会での生活を抜け出し、野に入りたいものだ。ぼくの身体が再び自然の勘を取り戻すことを願う。
 体重を増やすためカロリーの高いものを意識して食べているが一向に体重が増えない。最低でも60キロ以上は欲しい。体脂肪率がかなり低く、ぼくにはもっと脂肪が必要なのだ。得に高所では。

 昨晩、山本先生は東京に出張にでてしまい、三浦さんたちも帰ってしまったので、大学にいるのはぼくと手伝いの学生のみだ。山本先生のゼミ生たちは皆気さくないいやつばかりで、話していてほっとする。みんなスポーツの特定種目に長けているが、体育会系というよりは理系のノリで真面目な学生が多い。卒業式を昨日終えた院生もいて、2,3日中に就職先の東京や神奈川に向かうという。送別会などで飲んだくれて二日酔いの中、ぼくらの検査を手伝ってくれたり本当に頭の下がる思いだ。
 今日はアコンカグアのベースキャンプがあった4200メートルくらいに部屋の酸素濃度を設定して眠るつもりだ。明朝5時30分に大学をでて空港へと向かう。羽田着は10時。いよいよ出発前、最後の週がはじまる。早くチベットにいきたいなあ。
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2001年03月27日(火)
■こんな日記ですみません。
 
 鹿屋体育大学最後の夜、25日から26日朝にかけて低酸素室の中で徹夜してしまった。設定した標高は4600メートルだった。薄い空気の中、今度出版される本の校正をする。禁じられた行為?
 とにかく5000メートルくらいまでは順化できたと思う。あとは実践あるのみだ。鹿児島から自宅に帰ってすぐ大学に向かった。一昨年の成績と、科目登録書類をもらうのが目的だった。最近は「大学、行ってないんでしょ」とみんな決めつけるようにぼくに聞いてくるが、そんなことはないのだ。今までの旅も休みを狙っていっているので、みんなが想像するほどたくさん学校を休んでいる覚えはない。(本当か?)今回はたまたま科目登録をしてすぐにチベットに行ってしまうが・・・。
 成績表はもらった瞬間にくしゃくしゃにしてカバンにつっこんだ。なぜかわからないが興味がわかなかった。それでもやっぱり見てみるか、と地下鉄の中でくしゃくしゃの成績表をおそるおそる開いてみると・・・。落とした科目はたった一つだけではないか。Aもある。うーむ、なんと寛大な大学だろう。
 4月からぼくは4年になり、成績表によると今年ぼくは18単位とれば卒業できる。一科目4単位だから4つの通常授業と一つの半期授業にでれば卒業できるのだ。余裕ではないか。ふう。

 ここから27日。
 10時30分より麻布にあるJ-WAVEのスタジオに向かった。11時から生出演でクリス智子さんと話。エベレストからも定期的に交信できることになった。
 13時より渋谷で山と渓谷社の新雑誌「Mt.」の取材・写真撮影。若者向けの新しい山雑誌とのこと。発売は5月?
 14時より青山で講談社の本のための顔写真撮影。「カメラの前でにっこりできません」とカメラマンの方に言うと、「しなくていいよ」と言われ、ほっとする。ウマがあった。
 16時よりAERAの取材・写真撮影。渋谷のシネマライズ横の人通りの多い場所で撮影をしたが、こっぱずかしいことこの上ない。
 18時30分よりP2Pの応援する会の方々とごはんを食べながら今後の体制について話した。

 果たしてこんなスケジュールをつらつら書いていいものだろうか。いよいよ出発が迫ってきた〜。
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2001年03月28日(水)
■桜
 
 去年は桜を見る間もなく日本を発った。
 今年も見ることができないかと思っていた。
 東京は暖かかった。桜は咲いていた。
 
 青山墓地で桜を見た。隣にいた人が「桜は生命力に溢れていて・・」と言った。
 確かに幹はおどろおどろしいほどに生命力を帯び、太い枝から小さな桜がこらえきれないように飛び出ていた。
 見上げると桃花色の花びらたちが風に揺らいでいた。ほのかな香りが鼻をかすめた。
 
 そこは墓地だった。
 墓石の回りで落ちた桜の花を拾う小さな女の子がいた。
 シートを広げて宴会をするグループがあった。
 散歩を楽しむ初老の紳士がいた。
 幸せそうなカップルがいた。
 死びとの住処は生命に彩られていた。生と死は共にあった。
 
 花笛を吹いた。花びらを唇にあてて息を吹きかけると、桜の笑い声が聞こえた。
 チベットに向かう前に桜並木を歩くことができたのは幸運だった。
 また桜を見たいと思った。
 帰ってこようと心に誓った。
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