| ----------------------------------------------------------------- スターナビゲーション、あるいは伝統航海術とよばれる秘術がこの世には存在する。 それは海図やコンパス・羅針盤などの近代計器を一切使わず、星や風・波のうねりや鳥やクジラをはじめとする海上の生物など、あらゆる自然現象をたよりに舟を目的地に導く高度な体系のことを指す。太平洋全域でこのような伝統文化が廃れつつある現在、未だ細々と口承によって人々の間に受け継がれている土地があった。その場所というのはミクロネシアのヤップ島以東にある小さな離島群である。 今から4000年ほど前、ぼくたちの祖先である古代モンゴロイドは、これらの技術によって東南アジア島嶼部から東へと星の航路をたどり、広大な太平洋に浮かぶ小さな島々に次々と移住していった。偉大な航海者たちはオセアニア全域を横切り、さらに南米大陸まで動いていた可能性がある。彼らはタロイモやヤムイモなどの根菜類中心の農耕文化を携え、 主として沖合の島々に居住地を定め、島から島へと早いスピードで南東へ移動した。彼らの東進は2段階にわかれており、はじめにビスマーク諸島、ソロモン、バヌアツを経て、フィジーやトンガ、サモアに至る約4000キロを600年という速い速度で移動した。次いで今から約2000年前に、再び人類は東進を始めた。まず、ソサエティやマルケサスへ直進、そこから放射状に北のハワイ、南東のイースター島へと分裂し、そして最後のフロンティアとなった南西のニュージーランドへ行き着いたのが、今から約1000年くらい前のことだった。 このように次々と新しい海の道を拓いていった伝統航海術は、21世紀を迎えた現代社会において、ほとんどの地域で過去の伝説のなかに封じ込められようとしている。かろうじてミクロネシアのサタワル島やウォレアイ島という小さな小さな離島に住む数人の古老の頭の中にだけ、太古の叡智が刻み込まれているのである。 石川はこの伝統航海術と人類の海の旅路を辿り、頻繁にミクロネシアの航海師のもとに通っている。地図もない時代、その先に島があるかもわからずにどのようにして人は海に漕ぎ出していったのだろうか。科学技術に頼り切った社会の対極にある文化。限られた資源の中で自らの欲望を律し、持続可能な社会を築いている先住民たちの知恵。島に生きる子どもたちの未来。本当の豊かさとは一体何か。人類の渡海の謎を追うなかで、これらの言葉をキーワードに石川は旅を続けていく。 |